ケミカル液の移送は、流体の腐食性や揮発性、温度による粘度変化、微細な固形物(スラリー)の含有など、水とは異なる厳しい条件が重なり、ポンプ選定や設備設計においては多くの注意点が求められます。
具体的には、「液漏れが許されない」「ポンプの腐食を防がなくてはならない」「スラリーで摩耗が激しくなる」といった課題などが考えられます。
本記事では、ケミカル液を移送するために必要なポンプの要件を整理し、選定のポイントや具体的な導入事例について解説します。
ケミカル液の移送の課題とは?
ケミカル液の移送が一般的な水や油と大きく異なるのは、適切に取り扱わないと液体そのものが設備や人体に小さくない影響を及ぼす危険性を持っている点です。ここでは「液特性」「設備設計」「安全対策」の3つの視点から、移送現場における課題を整理します。
・液特性による腐食や移送中での液の不安定化
強い酸やアルカリなどの腐食性流体は、不適切な材質を選ぶとポンプ本体を浸食し、腐食やひび割れなどをもたらすことで液漏れを引き起こす可能性があります。また、特に溶剤系の樹脂溶液などの場合、温度低下で粘度が急上昇して流量が安定しなかったり、配管に液が付着して配管閉塞を招くといったことも考えられます。
・設備設計における漏洩リスクと保守負担
揮発性の高い液体の移送では、メカニカルシールなどの軸封部からのわずかな漏洩がトラブルに繋がりかねません。揮発ガスの漏出による作業環境の悪化に加え、メカニカルシールの摺動部が劣化しやすくなることで頻繁な部品交換が必要になるという負担が発生してきます。
・安全対策
引火性や可燃性を持つ危険物を扱う防爆エリアでは、漏洩防止はもちろん、設備全体での防爆対応が必須です。万が一の漏れが大事故に繋がるため、一般的な運用とは異なるシビアな管理が求められます。
これらの複合的なリスクを乗り越えるために、「ケミカル液特有の特徴」を理解した上での適切なポンプ選定が必要です。
ケミカル液を安定移送するポンプの要件とは?
液性に適した耐腐食材質を採用していること
ケミカル液を移送する上で最初に注意すべき点として、流体の特性(酸・アルカリ・溶剤など)に適合する材質がポンプの接液部に採用されているかということが挙げられます。
例えば、一般的に錆びに強いとされるステンレス(SUS)材は、アルカリには強いものの、硫酸や塩酸といったpHの低い液体(強酸)にはあまり強くなく、短期間で腐食による液漏れを引き起こす可能性があります。また、液の温度が高くなると侵食性も上がる傾向があるため、さらに注意が必要です。
強酸を扱う場合にはPTFEやPVDFといった耐薬品性に優れたフッ素樹脂材を接液部に使用するケースが多く見られます。
また、Oリングやガスケットなど、継手部分をシールする部品の材質にも同様に注意が必要です。溶剤やアルカリがOリングを溶かしてしまうことは、やはり液漏れの原因となります。短期間では影響が出てきませんが、使い続けているうちに少しずつ侵食が進み、ある日突然急激な液漏れが発生することになりかねません。
漏洩リスクを抑えるシール構造を備えていること
ケミカル液の移送において、軸封部(シール部)からの液漏れ対策は重要な要因となります。一般的に広く普及している「メカニカルシール」を採用する場合、流体の腐食性や揮発性に合わせて、摺動部やOリングの材質を選定すれば十分に運用可能です。
ただし、メカニカルシールは長期間の使用に伴う摺動部の摩耗によって微小な漏洩リスクがあるため、定期的な点検が欠かせません。
また、少しのの液漏れで大きな影響が出る猛毒・引火性の高い危険物を扱う場合、クエンチングを行う、ダブルメカニカルシールを用いるなど、液が完全に外部に漏れないような仕様を選択する必要があります。
使用用途にもよりますが、より高度な安全基準が求められるようなシーンでは、マグネットポンプやダイヤフラムポンプといったシールレス構造の採用も手段となります。
メンテナンス性に優れ長期安定運転が可能であること
ケミカル液という難しい液体の移送においては、導入後の「保守性」は長期的な安定稼働とランニングコスト削減のためには見落としたくないところです。
特にスラリー性のある液体や結晶の析出があるような流体条件では、部品摩耗による段階的な性能低下が避けられません。もし分解点検が難しく消耗品の交換に手間取る構造の場合、設備の停止時間が長期化し、生産性を低下させる要因となってしまいます。
そのため、「現場で容易に分解・交換ができるか」「迅速な部品供給体制があるか」といった点が重要になります。計画的な予防保全をスムーズに実施できるポンプを選定し、突発停止の回避とコスト削減を両立させましょう。
ケミカル液を安定移送するおすすめのポンプ
ラジアルベーンポンプ
溶剤やスラリー混入液、高粘度液まで幅広く対応できる容積式ポンプで、接液部には耐腐食・耐摩耗性に優れたセラミックライナーを採用可能で、扱う液体の性質に合わせてベーンの材質を変更することが可能です。
構造がシンプルでメンテンナスが容易なため、ランニングコストの削減に貢献します。強力な自吸力によりドラム缶の底の液まで引き抜けるといった特徴もあり、様々な用途でお使いいただけます。
二軸スクリューポンプ
スラリー(固形分)が混入した液や高粘度ケミカル液の移送には、二軸スクリューポンプという選択肢が挙げられます。
その移送原理によりスラリーによる部品摩耗に強く、摩耗によって流量が減っても回転数を上げることで能力を回復させることができるため、ランニングコストの削減に貢献します。
また、数万mPa・sの液体でもストレス少なく移送することができる構造をしており、比較的小型のポンプでも大きな流量を生み出すことができます。
接液部を露出させることが簡単な構造であるため、現場での分解・洗浄といったメンテナンスの負担が小さいという点も大きな特長です。
これによって保守の手間を劇的に削減し、生産ラインの長期安定稼働につながります。
導入事例
有機溶剤の移送
ある化学工場における有機溶剤のタンク間移送では、タンク内の液量が減るとエア噛みが発生し、既設ポンプでは吸入能力が低下して液残りが生じる課題がありました。そのため、底に溜まった残液を人力で回収せざるを得ず、多大な手間がかかっていました。
そこで、極めて高い自吸力を持つ伏虎金属工業の「ラジアルベーンポンプ」を導入。液量が減ってエア噛みが起こる状況でも能力が落ちず、タンクの底の液まで完全に引き抜けるようになりました。面倒な人力回収作業がゼロになり、生産効率を劇的に向上させることができました。
アルミニウムスラリーの移送
ある化学工場では、アルミニウムスラリーの移送において、激しい部品摩耗によりすぐにポンプの能力が低下する課題を抱えていました。半年に1回の頻度でポンプ交換が必要となり、多大なランニングコストと生産ライン停止のロスが発生していました。
この工程に二軸スクリューポンプを導入。摩耗による能力低下をポンプの回転数を上げることで補える特長を活かし、主要部品の交換なしで10年間もの安定稼働を実現しました。年間200万円の保守コスト削減と、大幅な生産性向上を達成しました。
まとめ
ケミカル液の移送は、腐食性や揮発性、粘度変化、スラリーの含有など、水とは異なる難しい条件をクリアしなければなりません。しかし、流体の特性を正確に把握し、それに適合した材質と構造を持つポンプを選定することで、液漏れによる環境への悪影響や設備停止といった重大なリスクは確実に回避できます。
また、適切な選定と運用は定期的な保守によるメンテンナスの手間や部品交換の費用削減といった効果にもつながります。液の特性とポンプの特徴。それぞれの専門家の知識をかけ合わせることで安定的な使用環境が得られるようになります。
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